海底より発見されしゴールド・ロケットの謎を追え! ……の、補足記事

タイタニック

こんにちは。こちらは拙作の漫画「海底より発見されしゴールド・ロケットの謎を追え!」を鬼のように補足する記事です。
漫画をまだお読みでない方は、ぜひ漫画の方からご覧になってくださいね。

前提の漫画-ヴィクター・ジリオは従者か秘書か大問題!

今回の漫画-海底より発見されしゴールド・ロケットの謎を追え!

疑問のきっかけ

漫画にも描いた通り、私はとあるクローズドな場での書き込みがきっかけで、このゴールドロケットについて知りました。

そこで貼られていたニュース記事はこちら。

『海底で発見されたロケットは、タイタニック号の悲劇的なラブストーリーを語る』

サイト:INTERNATIONAL BUSINESS TIMES
記事見出し:Locket found on ocean floor tells real-life tragic love story from the Titanic
公開日:2017年4月12日
参照した日:2025年4月13日
URL:https://www.ibtimes.co.uk/locket-found-ocean-floor-tells-real-life-tragic-love-story-titanic-1616663

クローズドな場所での話でしたので、漫画内では書き込みの内容などはぼやかしましたが、そこにはこのロケットの美しさを称賛するコメントとともに「本当にこれはV.Cというイニシャルなのか、V.Gではないのか」ということや、「不確定な情報で遺物を個人に結び付けるのはいかがなものか」といったことも書き込まれていました。

私も最初からそうした意見に賛同していました。さらに、記事の中にはこんな記述があります。

私たちが記録をチェックしたところ、VCというイニシャルを持つ乗客は多くなく、私たちはこれがロサンゼルスのウォルター・クラークと結婚していたヴァージニア・クラークのものだと考えたのです。

サイト:INTERNATIONAL BUSINESS TIMES
記事見出し:Locket found on ocean floor tells real-life tragic love story from the Titanic
公開日:2017年4月12日
参照した日:2025年4月13日
URL:https://www.ibtimes.co.uk/locket-found-ocean-floor-tells-real-life-tragic-love-story-titanic-1616663

この記事の情報だけを読むと、少なすぎる情報で持ち主を推測しているように見えます。

しかも前作の漫画でも描いた通り、ジリオ氏は当時それほど階級の高くなかった「従者」と勘違いされています。
18金のロケットなんて今なお高級品ですから、この持ち主がそれなりに豊かな暮らしをしている人だったと推測するのは当然です。でも、そのせいでジリオ氏は持ち主候補から外されているのではないだろうか……。それが私の最初の推測でした。

ロケットに刻まれた文字は、VかYかは断言できないとしても、「Cではなさすぎる」。ジリオ氏のことを決めつけからろくに調べもせず、他のめぼしい乗客に無理やりにこじつけているのではないか……?

というわけで、まずはこのロケットを扱うニュース記事を片っ端から調べることにしました。
そして、このロケットがとある男性用の旅行バッグから出てきたこと、またそのバッグから他のアイテムも同時に出てきたことがわかりました。

『ルクソール・ホテル&カジノ “内の「タイタニック:ザ・アーティファクト展」で、未公開のギャンブルチップを含むクラーク郡にゆかりのあるタイタニックの遺物を展示』

サイト:Kirvin Doak Communications
記事見出し:Titanic Artifacts Tied To Clark County, Including Never-Before-Seen Gambling Chips, at Titanic: The Artifact Exhibition Inside Luxor Hotel and Casino
公開日:2017年4月10日
参照した日:2025年4月13日
URL:https://www.prweb.com/releases/titanic_artifacts_tied_to_clark_county_including_never_before_seen_gambling_chips_at_titanic_the_artifact_exhibition_inside_luxor_hotel_and_casino/prweb14202451.htm

このニュースの記事によるとギャンブルのチップ、カフスボタン、金メッキの洗面用具などが、同じカバンの中から発見されたとのこと。
しかしこの他、どの記事にも「バッグの中から名前が明記されたチケットが出てきた」とか、「メモの書かれた手帳の内容からして、これはクラークの物だと推測した」といった、他の判断材料となるアイテムの情報は出てきません。

名前が明記されていても……特定には至らなかったアクセサリーの例

少しわき道にそれますが、名前が記されていても、持ち主の特定には至らなかったタイタニックの遺物は存在します。
有名なのは、ダイヤモンドで「Amy」という名前が綴られた、子供用のブレスレットです。
何人か持ち主候補となった人物はいるのですが、そのうちの誰かというところまでは絞れなかったようです。

また、このブレスレットについて推測する人の中にも、やはりこれが「お土産であった可能性」について言及する人も多くいました。乗客の誰かのものではなく、乗客が誰かにプレゼントするためのものだったのではないか、という推測です。実際に生前の乗客から「エイミーと言う名の親類のために買ったアクセサリー(ブレスレットか、ペンダントかなどは不明)が、渡す前に海に沈んでしまった」という話を聞いた人もいるようです。

しかしどちらにせよ、判断材料が少なすぎるため持ち主の特定には至っていないのです。このような複数の可能性があるアイテムに対し、「判断保留」という態度は誠実だと私は思います。

証拠は十分! 持ち主の特定に至ったバッグの例

反対に、持ち主が特定されたタイタニック乗客/乗員のバッグは存在します。

一番有名なのは「ウィリアム・マードック航海士のバッグ」でしょうか。このバッグには「W.M」というイニシャルが書かれていましたが、はっきりと名前がわかる書類などは出てきていません。しかし決め手となるアイテム、「ホワイトスターラインの制服のボタン」が入っていました。このボタンは少し型が古いもので、他の持ち主候補に挙がった人々は、新しいデザインの制服が導入された後に乗務していました。つまり、このイニシャルを有し、古いボタンを持っていたのはマードック氏だけということになります。
さらに一緒に出てきたパイプ、髭剃り道具などの小物も、当時マードックがパイプで喫煙していたこと、髭を剃る習慣があったことから、「このバッグは彼のものである」という説の補強となったようです。
(※このマードックのバッグに関する情報は、Gavin.Kromさんからご提供いただきました。この場を借りてお礼申し上げます)

また、3等乗客だったマリオン・ミーンウェル氏のバッグも有名です。彼女のバッグはワニ革で出来ており、この堅牢なバッグの中には健康診断書、転職の際に使う家主からの推薦状なども入っていたため、持ち主の特定に至ったということです。

でも、今回の件で出てくるのは「ロケットに彫られたイニシャルから乗客を推測しました」という情報のみ。さて、マードック氏やミーンウェル氏の件と比べ、明らかに情報が不足した中からロケット(バッグ)の持ち主が推定されていることがわかるはずです。

アクセサリーを夫のバッグにいれるのって不自然では?

ロケットとそのバッグについての話に戻ります。

バッグから出てきたアイテムは全て、裕福な男性が持つもののはず。ロケットだけなら、貧しい人が大切にしている一点物のアクセサリーということも考えられますが、これだけ大量の金ぴか&メンズおしゃれグッズが同時に出てきているのですから、持ち主は経済的に余裕のある男性で間違いないでしょう。
そう。男性物。しかもこのバッグから、他に女性もののアイテムは出てきていないみたいなんですよね。出ていたらそれも証拠のひとつになりますから喧伝されているでしょうが、特にないので、これはマジでないんだと思います。

改めて、「夫のバッグに自分のアクセサリーをひとつだけいれる」というシチュエーション、なんかおかしくないですか?

たとえばこのバッグから、他の女性ものアイテムが出てきたのなら話は別です。指輪やネックレス、耳飾りが一緒に出てきた……というのなら、一時的に夫にアクセサリーを預けていた、というのもわからないではありません。しかしそのような報道、展示はされていないようです。

しかもこれは「ロケット」です。今でもそうですが、ロケットには恋人や配偶者など、大事な人の写真をいれることが多いものですよね。また、タイタニック事故当時はやや廃れていたようですが、少し時代をさかのぼると、ロケットの中には大事な人の髪の毛や遺髪を入れる習慣もあったようです。ロケットはセンチメンタルな意味合いの強いアクセサリーだったのですね。

となると、余計に違和感。ただでさえ、大事なアクセサリーは自分で管理したいと思う女性は多いと思います。
夫に、自分のセンチメンタルな意味合いを持つアクセサリーを、一つだけ預ける。

……それってどういった状況なんでしょう?

追記:このロケットは写真を入れるようなロケットではなく、パウダーコンパクトの可能性もあります。携帯できるミニミニ化粧品といったところでしょうか。当時こうした小さなロケットにパウダーや練香水などを入れたアクセサリーが流通していたようです。まあこの線で行っても、なんで化粧品を夫に一つだけ預けてるのか、という疑問は変わらないのですが……。

SMのイニシャル入りのアイテム……なぜこっちだけお土産判定?

不思議な点はまだまだあります。
ロケットのほか、バッグからは多数のアイテムが出てきていますが、その中の一つに金メッキが施された洗面用具がありました。この洗面用具の蓋には「SM」という名前が刻まれており、RMST社はこれを「ヴァージニアの旧姓、マクダウェルとMが一致するから、これはマクダウェル家の誰かへのお土産だろう」と推察しています。この推察もかなり無理があるのではないでしょうか……。ロケットがお土産、またはこの洗面用具とロケットどちらもがお土産である可能性だって十分あるはずですが、なぜかこちらだけがお土産判定。ハッキリ言ってこの判断は意味不明です。

また、このイニシャルが本当にSMなのかも個人的には疑わしく感じます。というのも、報道された写真には文字が全く写っていないからです。展示されている状態での写真も見ましたが、そちらにもはっきりとは映っていませんでした。もしかしたら実物に近づいてみればわかるのかもしれませんが、どのような書体の文字であるかは確認できません。

そして文字が確認できない以上これまた推測でしかないのですが、刻まれた文字はSMではなく、実は逆さで、WSである可能性もある……と私は踏んでいます。だとしたら一等乗客の男性であるウィリアム・スペンサー氏、ウィリアム・ステッド氏なども持ち主の候補に挙がってきます。

また、どうしてもお土産という線でいくとしても、乗客の誰にでもSM(またはWS)に該当する親戚や友人知人は一人二人いるのではないでしょうか。実際ジリオ氏の母親の旧姓はSepsiなので、刻まれた文字がWSだった場合はこっちにも微妙に可能性が出てきます。ですからこの洗面用具は、少なくとも「クラークのものである」という説の補強にはなりえないと私は感じてしまいます(そもそもなんで、妻の親類へのお土産を日常使いしてたっぽい小型のバッグに入れてるんだよと言う疑問も当然ある)。

バッグはどこから来て、どこへ行った?

さらにもうひとつ、不思議な点があります。それはこれらの荷物が入っていたバッグがどこにも紹介されていないことです。私は、このロケットが入っていたというバッグの写真を見たことがありません。
先ほど紹介したマードック氏のバッグ、ミーンウェル氏のバッグ、それから沢山の貴重品が入っていたと言うパーサーのバッグの写真は何度も見たことがあります。その中身だけでなく、「海底でなお何十年も中身を守り続けたバッグ」はそれだけで価値があるものだからです。
しかしクラーク氏のバッグについてはほとんど触れられません。「小さな旅行カバンのなかから見つかった」という程度の説明しかされていないのです。
もちろん私が見落としている可能性もありますが、これはなぜなのでしょうか。長年海底に沈んでいたため、もはや外観をとどめないほど、またはほんの少しの温度や湿度の変化に耐えられないほど劣化してしまっているからなのでしょうか。

その可能性は十分ありますが――そもそもこのバッグは存在しているのでしょうか?

これは根本を覆す疑問ですが……。どうしても、2013年に公開されたニュースに若干の引っ掛かりを感じてしまうのです。
その記事では、1987年に発見されたタイタニックパーサーの「乗客たちの貴重品を取りまとめたバッグ」の中から出てきたアクセサリーの展示会が紹介されていました。乗客が航海中身に着けない貴重品などは、乗員に預けることができたのですね。そしてこの展示会で、今回の焦点となるゴールドロケットが展示されていたのです。
記事本文を翻訳して引用します。

75年間2.5マイルの海底にあった輝く指輪、ネックレス、ボタンカバー、ブレスレット、ピンがガラスケースの中に展示されている。RMSタイタニック社――タイタニック号の遺物回収を法律で唯一許可されている会社――が1987年に大きな発見をした。
「私たちは、このグラッドストーンバッグを見つけました」とタイタニック:アーティファクト展のクリエイティブディレクター、マーク・ラックは言った。「まるで医者のバッグのようです。これはパーサーのオフィスから出てきたものなんです。」
(中略)
バッグは革製だった。 なめし加工には、海の底の微生物を遠ざけ、ジュエリーを保護する化学物質が使われていた。
それらは誰のものだったのか?
ラックは持ち主を確認することはできない、と言った。しかし、彼は推測はできる。例えば、金のロケットには「V.C.」というイニシャルが刻まれていたのだ。
「ヴァージニアクラークはタイタニックの一等客でしたから、彼女のものかもしれません」とラックは言った。

サイト:BY NEWS 13 FLORIDA
記事見出し:『Jewelry from wreck of Titanic to go on display』
公開日:2012年11月14日
参照した日:2025年4月13日
URL:https://mynews13.com/fl/orlando/news/2013/1/14/jewels_of_well_to_do?cid?cid=share_clip

この記事では、まるでロケットが87年に発見されたパーサーのバッグから出てきたような説明になってしまっています。これは単に記者のミスかもしれないのであまり穿った見方をするのはよくないかもしれませんが、個人的には不安材料の一つとなっています。でも、もしこのロケットが2017年に報道されていたように「94年に発見された男性用の旅行カバン」ではなく、実は「87年に発見されたパーサーのバッグ」から出てきたものだとしたら……、つまり出所について嘘をつかれているとしたら……?

ちなみに、このロケットが大々的に「クラークのもの」として宣伝されるのはこの展示会の4年後、2017年です。記事を読んだ人たちから、「CじゃなくてGだろ」の声が上がるかどうか、この時点で観測気球を飛ばしていたのではないか……というのは、まあ、ちょっと考えすぎでしょうか。

……さて、こうした情報を精査すればするほど、私はRMST社への不信感が募っていきました。

RMST社へ寄せられている批判、更に募る私の不信感

タイタニックの遺物引き揚げや展示を行っている会社、RMS TITNIC.inc。以前よりタイタニックオタクからやけに色々言われてるなという印象はありましたが、ちょっと調べてみただけで「あ~……」という情報が山盛りで出てきました。

『ドワーフ・トッシング、「ダック・ダイナスティ」、アル・カポネの金庫:タイタニックへのアクセスを事実上支配する奇妙な企業の内幕』

サイト:BUSINESS INSIDER
記事見出し:Dwarf-tossing, ‘Duck Dynasty,’ and Al Capone’s vault: Inside the strange company that effectively controls access to the Titanic
公開日:2023年6月24日
参照した日:2025年1月4日
URL:https://www.businessinsider.com/rms-titanic-inc-controls-access-titanic-history-2023-6

上記の記事はタイタン号沈没事故の直後ということもあり、ボロカスに言われている……。
映画『タイタニック(97)』には、超希少ダイヤ「碧洋のハート」を狙う、倫理観浅めのお宝ハンターラヴェットが登場しますが、モデルの一人はこの会社関係者なのでは……。

引き揚げに関して、沈没したタイタニック号を発見したロバート博士はずっと反対しています。あれは海のお墓であり、お金儲け目的で遺物の引き揚げなどしてはいけない、というのが博士の主張です。遺族の中にも憤慨している人はいて、タイタニック事故で父親を亡くしたエヴァ・ハート氏は生前こう言っています。

「タイタニック号の沈没した場所から物品をとってくることは、まさしく海賊行為です。フランス調査団がもち帰った皿は、ひょっとすると私の父が最後の食事に使った皿かもしれないのです」

著者:ロバート・D・バラード
翻訳:柴田和雄
タイトル:タイタニック号の遭難
ページ:62
出版社:リブリオ出版
出版年:1993

そして親会社のプレミア・エキシビジョンズ、ここを掘っていくとさらに驚愕の事実が。本物の遺体をプラスティック加工して展示している、いわゆる「人体の不思議展」も運営してたんですね。
「人体の不思議展」は日本でも多くの著名人が推奨したこともあり、一時は全国各地を巡回していました。たとえ展示会場へ赴かなくても、宣伝などでまるで人体模型のようになった皮をはがされた人間の写真を見た方は多いのではないでしょうか。
しかし今はこの展示会の名はめっきり聞かないはず。というのも、後に展示に倫理的な問題が大有りとされ、実質的に日本から締め出されているからです。
展示されているのが本当に同意を得た献体であったのか、ハッキリしない。医学的な価値があると謳っているわりに、解剖の仕方に無理があったり、おかしなポーズを取らされている……。そんな諸々が重なり、日本医師会もこの展示会を問題視。つまり「見世物」的な側面が高い展示だと判断されたのですね。この件については下記の本に詳しいので、ご興味ある方はぜひ。(楽天に新品がないっぽいので中古へのリンクで申し訳ない……後日修正したいところ)


【中古】 死体は見世物か 「人体の不思議展」をめぐって / 末永 恵子 / 大月書店 [単行本]【メール便送料無料】【最短翌日配達対応】

当然アメリカでもこの展示会は議論を巻き起こし、ハワイなど一部の州ではこうした展示会は開催できなくなっています。

この件を掘っているとき、どんどん悲しくなりました。

親会社は遺体に変なポーズを取らせても、遺体の身許がわかんなくても全然平気。死者の尊厳を守ろうと言う想いが希薄なのではないか? むしろ「死」というものを、軽く扱っているからこそできることなのでは? この会社、タイタニックの犠牲者を悼みたいとか、記録に残すことで人々の記憶にも残したい……といった理念で運営されているわけではないのではないか……?
もちろん社員の中に、タイタニックにまつわる人、ものなどに心からの愛を抱いている人も多くいるのは確かですが、上層部はそうでないとしたら……。彼らにとって「不確定要素の多いアイテムを、話題のために特定の乗客と紐づけて宣伝する」なんてこと、まったく大したことではないのかもしれません。

とはいえ「断定」はしていないのである

と、ここまでぐちぐち言ってきましたが、このロケットの件で念を押しておきたいのは、「RMST社は持ち主を『断定』はしていない」ということです。多分そうだろう、と推測したことを宣伝しているだけで、これは絶対に彼女のものだといった主張はしていません。2020年にツイッター、フェイスブックでもRMST社はこのロケットの画像を投稿していますが、その際のポストも「このモノグラムがバージニアのイニシャル、VCと一致している」という書き方をしています。
しかしこういうやり方は誠実というよりはなんというか、ズルい感じがします……。だってそもそも全然Cに見えない文字なので。

推測ですと言ったところで、ニュース記事には「地元の名士のクラークゆかりの……」といった宣伝がなされていましたし、何も知らない人は「へえ、そうなんだ、彼女のものなんだ」と受け取るでしょう。実際ウォルター・クラーク氏の叔父、ウィリアム・クラーク氏のウィキペディアのページには、「甥っ子のクラークの妻のロケットが見つかった」と言ったことが書いてありましたし、他にもこのロケットをクラークのものだと紹介しているいくつかのページを見たことがあります。この「不確定(誤解)だった記述が真実として広がっていく」様子は、ジリオ=従者の誤解が広がった経緯と似たものを感じてしまいます。

真に誠実であろうとしたら、これは持ち主不明にしておくしかない代物なので、「断定はしないけど、ガンガン宣伝はする」という姿勢は「何か突っ込まれた時の保険」に思えてなりません。

まとめ……そして私が懸念していること

私の結論というか、主張は漫画の方と変わりません。「不確定要素の多い遺物を、特定の人物と絡めて宣伝するのはやめるべきだ。」これに尽きます。Amyブレスレットのときはあえて持ち主を断定することはしなかったのだから、このロケットだってそのように扱えばよかったのです。
候補となる人物の名を全員挙げるならわかります。そうした展示法ではだめだったのでしょうか? 該当するイニシャルの人物を挙げ、あなたは誰のものだと思いますか、と来場者に考えさせるような展示だったら、タイタニックの乗客の記録を継承していくということにもつながると思うのですが、RMST社はバージニア・クラーク氏との結びつきだけを殊更に宣伝していました。

私はこのロケットがジリオ氏のものである可能性もそれほど高いとは思っていません。でも、これが「乗客のイニシャルを表している」「男性用の旅行カバンから出てきた」という前提に立つのなら、真っ先に名前が挙がるのはヴァージニア・クラーク氏よりむしろジリオ氏のはずです。なのになぜジリオ氏は深堀りされなかったのでしょうか。その宣伝では「ダメ」だったからでしょうか。ダメだとしたら、それはなぜでしょうか。

私が懸念しているのは、もっと先の未来のことです。
今はまだ「クラークのロケットである」という説に疑問を持つ人が、私以外にも多少は存在しています。けれど、やがてそれを知る人がいなくなり、ネットの記事も削除され、当時の空気感も忘れ去られてしまったら……このロケットは、ジリオが“従者”だと広まっていったのと同じように、「クラークのものである」と語り継がれてしまうのではないでしょうか。そのとき、この説に疑問を持つ人が果たして残っているのかもわかりません。

私はこのロケットがジリオ氏のものであるとは断定しません。けれど、クラーク氏のものであると“だけ”語られることには、やはり強い違和感があります。

歴史は、時にあっけなく“わかりやすい物語”に収まってしまいます。だからこそ、「わからないことには安易に結論を出さず、複数の可能性を抱えたまま未来へ手渡していく」。それこそが、タイタニック事故を経験した方々への、誠実な向き合い方なのではないでしょうか。

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