タイタニック漫画「愛し友よ、最後の夜を」解説-3

G&G

22023年7月に発表したグッゲンハイム氏&ジリオ氏の漫画の解説です。

細かいところを解説していくシリーズ記事ですので、先に漫画の方をお読みになって下さいね。

分量が多いので、数ページごとに分けております。

この記事では全22Pの漫画の内、11~15P目の解説をいたします。

11P目

女性と子供の手助けをするG&G

エッチェス氏は、G&Gが女性と子供が乗り込めるよう、7号ボート、5号ボート間を移動して手助けしてあげていたと証言しています。
この漫画では彼らだけが女性に手を貸したかのようにも見えますが、フランク・ウォーレン氏がそうであったように、おそらく他の男性も女性に手を貸しボートに乗せてやっています。実際5号ボートが降ろされる頃、状況はまだそれほど切迫してはいなかったはずで、男性たちは紳士な態度だったようです。このコマのように「下がってくれ」と言われたら「おお、女性を通そう」と普通に下がったはず。
このシーンでも男性たちが「邪魔」をしたり「我先にボートへ乗る」ようなシーンは書いていませんし、むしろおとなしく後ろに下がってあげているように描いたつもりですが、万が一にでも「〇〇が救助活動の邪魔をした」と捉えられないように、このシーンの男性たちは顔を描いていません。

……しかし……。特にグッゲンハイム氏は大きい声で「女性優先だ」と言っていたらしいのですが、実際どれほど船員の助けになっていたのかなー、とちょっと疑問に思います。エッチェス氏は「船員の大きな助けになっていた」と証言してくれましたが……。イズメイ社長が怒られたように、邪魔だと捉えられてもしゃあないといえばしゃあないので……。

Helen Ostby(ヘレン・オストビー)氏

ヘレン・オストビー(右)は父と一緒にタイタニックに乗船していた若い女性です。彼女は父とウォーレン夫妻とともにボートデッキへと向かいました。彼女を5号ボート付近に残し、父親は暖かい上着をとりに行くためキャビンに戻りました。その間、ヘレン・オストビー氏はアンナ・ウォーレン氏(左/一部ベタ塗りを忘れるという作画ミスあり)とボートに乗り込みます。彼女はそれ以降、二度と父親と会うことが出来ませんでした。父親ははぐれた娘を探していたのでしょうか。それとも状況的に若い女性は先にボートに乗せてもらえていたから、娘がボートに乗ったことを確信しつつ自身は船に留まったのでしょうか……真実はわかりません。

G&Gがエスコートするならば、周囲に父親や夫がいない女性だろうなと思ったので、この2人を誘導しているように描きました。アンナ・ウォーレン氏の夫、フランク・ウォーレンは、このとき別の女性を手助けしていたようです。

参考リンク:エンサイクロペディアTitanica/Helen Ostby

12P目

夜会服を身にまとっていた2人

このシーン、最初シルクハットは描いていなかったのですが、不安になったので有識者に相談してみました。そして以下のようなご意見をいただきました。

  • 死に装束に選ぶならキッチリした格好にしているはず
  • 甲板は外とみなされる
  • この時代若い子であっても、正式な夜会服を外で着るとなるとシルクハットをかぶるのが普通
  • 外は寒いはず

……というわけで、2人ともにシルクハットをかぶっていただきました。当時若い男性にはよりカジュアルなスタイルであるタキシードが流行り始めていたので、もしジリオ氏がタキシードしか持っていなかった場合は帽子は被っていなかったでしょう。タキシードの場合は帽子はかぶらないのです(タキシード仮面様はシルクハット被っていますが、あの恰好はそもそもタキシードではないのですよ……笑 まもちゃん好きだけどね!)。
個人的にはジリオ氏がタキシードしか持ってない、ということはなさそうだなと感じています。ジリオ氏はグッゲンハイム氏の財力の証でもあったと思われるので(トロフィーとまでは言いたくないし嫌な推測だけど、ややその側面はあったと思う)、普段からここぞとばかりに煌びやかな恰好をさせられていたのではないかと予想しています。なのでどこに出ても恥ずかしくない、きれいな夜会服は彼もちゃんと持っていたことでしょう。

しかし2人が夜会服の上にコートを着ていた可能性は結構あります。というのも、エッチェス氏は「セーターもわざわざ脱いで、私の記憶では救命胴衣も身に着けていなかった」と証言しているからです。「私の記憶では……」とあるのは、もしかするとコートを着ていたからかもしれません。夜会服だけを着ていた場合、救命胴衣は上から直接着用しなければならないのですぐわかるはず。でも夜会服の上にコートを羽織っていたとしたら……、その中に救命胴衣を着ているかどうかは若干見えづらくなりますよね。だからエッチェス氏は「私の記憶では」とややあいまいな言い方をしたのではないかと思います。
そして何より、この日は普通に寒かったので……防寒具としてコートを着て出た可能性、十分にあるんです。じゃあなぜコートを描かなかったかと言うとそれは漫画的演出のためです。一目見て夜会服だ、とわかってもらいたかったのです。

13P目

なぜそのようなことを?

G&Gは数ページ前でも描かれているように、詳しい情報を知る乗客=マレシャル氏から船の非常事態を聞かされています。しかしエッチェス氏がこの時点でどこまで船の危機を知っていたかは、これまた微妙なところです。なのでここの会話は若干の創作が入っています。ここでの会話はエッチェス氏がG&Gに「なぜそのようなことを?」と尋ねた、という記録から少し膨らませています。

紳士として沈む準備をしてきたんだよ

原文はこうです。“We’ve dressed up in our best,’‘and are prepared to go down like gentlemen.’
グッゲンハイム氏は贅沢が大好きでしたし、オシャレも好きだったのであろうことは彼の写真を観てもなんとなくわかります。そんな彼が死に装束として綺麗な服を着たがるのもそれほどおかしなことではないですよね。
一方でジリオ氏の方は青年期の写真は公開されておらず、彼が衣服に対しどんなスタンスを持っていたかはわかりません。
ただ、彼は実はかなりエンターテイナーな青年でした。彼は学生時代、演劇部の主役を務め、ステージでピアノやバイオリンを演奏し、さらにスポーツの試合でも場を盛り上げるような活躍をしています。彼の母校の神父は、彼の卒業後に「ジリオは学校生活の重要な役割を果たしていた」「彼が卒業してから演劇部はピンチに……」と、彼の不在を嘆いています。ここからわかるのは、彼が「人から注目されるのを、おそらくは楽しむタイプの青年だった」ということ。そして前回の解説2でも述べた通り、彼は日常的にオシャレな衣服を身にまとっていた可能性も高め。ですから、そういう彼が「死ぬかもしれないときにパジャマは嫌だ、かっこよくしていたい!」と思っていたとしても、そちらも割と自然なことなのかなと思います。

……彼らが夜会服を着たがった理由として思いつくことがもう一点あります。ジリオ氏は「白人」とはみなされない見た目でした。彼は非常時に差別される可能性を少しでも下げるためにも、一番高給できれいな服を着たがったのかもしれません。とはいえ実際デッキは相当暗かったようですし(映画『タイタニック』はおそらく映画的演出のためかなり明るい画面にしてる)、船員たちは人種は気にしていなかったと思いますが。エジプト人も助かっていますしね。まあ、こちらはあくまで私が考えた「もしかしたら」の推測です。

微笑むジリオ氏

少なくともこの時点では彼らは冷静だったようです。彼らと同行していたオウバルト氏もゼーゲッサー氏も、彼らはとても落ち着いていたと証言しています。(ゼーゲッサー氏には、覚悟していたと言うよりは彼らは何も知らないように見えていたようですが……このあたりはいずれ記事書きます)。

14P目

急かされるエッチェス氏

5号ボートはエッチェス氏の担当だったようで、マードック航海士はそれを知ると彼にボートに乗船するよう命令しました。エッチェス氏はボート降下にあたり、他船員の手助けを任されたようです。ジリオ氏は「漕ぎ手がいなければ」と言っていますが、このあたりも創作セリフです。ジリオ氏はエッチェス氏がボートに乗ってどんな仕事をするのかはわかっていないので適当に言っている、という設定です。

15P目

グッゲンハイム氏最期の伝言

一度行ってしまったエッチェス氏を呼び止めたくだりは私の演出です。
この言葉を、妻は一体どう受け止めたんでしょうね。愛人と一緒にいることは知っていたようだし、しかもグッゲンハイム氏はパリで勝手に散財して家族のお金を減らしてる……そしてこんなときでも「愛している」とは言ってくれない。ただ、そこ含めてとても人間的なメッセージだと思います。彼も妻に悪いと言う気持ちはあったのでしょうが、妻にだってそれなりの問題があったという彼なりの言い分もあるだろうし、愛しているだなんて言ったところで「嘘すぎる」と思ったのかも。そして結局、咄嗟に思いついた言葉がコレだった……ということなのでしょうか。

実はグッゲンハイム氏は他2人くらいに別のメッセージを託している可能性があります。誰が死んで誰が生きるかわからない状況でしたから、グッゲンハイム氏が何人かにメッセージを託していても別に不思議ではないですね。彼らはカルパチア号が救助に向かっていることは知らなかったでしょうから、最悪タイタニックが沈み、ボートがしばらくあてもなく漂流する可能性も考えていたかもしれません。
メッセージを託された別のひとりはマレシャル氏。彼は妻ではなく、グッゲンハイム兄弟へのメッセージを託されています。もうひとりはジョン・ジョンソンなるスチュワード。彼はグッゲンハイム氏に、「私が最期に思うのは、妻と娘たちのことだと伝えてくれ」とメッセージを託されたと報道されています。しかしマレシャル氏はともかく、このジョン・ジョンソンという人物は存在しないのです……。このミステリーについては複雑なので、また別途記事を書くつもりです。

Karl Behr(カール・ベーア)氏とHelen Newsom(ヘレン・ニューゾン)氏

どちらもアメリカ人の26歳のカップル。2人が恋愛関係にあったことをヘレン・ニューゾン氏の両親は快く思っておらず、両親は2人を一時的に引き離すことを目的の一つとして、娘を連れヨーロッパを旅行していました。しかしカール・ベーア氏は彼女をあきらめることなく、アメリカを旅立つと旅行中の一家に追いつき(!)、結局一家は彼とタイタニックで一緒にアメリカに帰ることにしました。半端ない行動力ですね。沈没時、カール・ベーア氏イズメイ社長に許可を得て、恋人と同じ5号ボートへ乗船できました。2人は翌年結婚し、四人の子供にも恵まれました。タイタニック沈没事故はどうしても悲しい別れのエピソードが多いのですが、事故を経てもこうして幸せに結ばれた若者たちもいたのですね。

参考リンク:エンサイクロペディアTitanica/Karl Howell Behr

参考リンク:エンサイクロペディアTitanica/Helen Newsom

Eleanor Cassebeer(エレノア・キャセビア氏)

家族を見舞うため、アメリカに帰る途中でした。ボートの隣には夫をタイタニック号の中に残したままのアンナ・ウォーレン氏がいて、ウォーレン夫人はタイタニックが沈んでいく中エレノア・キャセビア氏の手を固く握っていたということです。彼女の腰にはまた別の女性がぎゅっと抱き着いていたと言います。沈没後、彼女の乗るボートには海に投げ出された乗客たちの悲鳴が聞こえていました。このボートに乗船していたピットマン航海士は「ボートを戻し、乗客たちを助けよう」と3度訴えましたが、乗客たちに反対され、ついにこの5号ボートが沈没現場に戻ることはありませんでした。

参考リンク:エンサイクロペディアTitanica/Eleanor Cassebeer

11~15Pの解説は以上です。続きの解説はこちらの記事へどうぞ。

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