タイタニック漫画「愛し友よ、最後の夜を」解説-4

G&G

2023年7月に発表したグッゲンハイム氏&ジリオ氏の漫画の解説です。

細かいところを解説していくシリーズ記事ですので、先に漫画の方をお読みになって下さいね。

分量が多いので、数ページごとに分けております。

この記事では全22Pの漫画の内、16~20P目の解説をいたします。

16P目

彼らとの最期の別れ

この辺りは創作セリフです。実際にエッチェスが伝えたのは「私は彼に手を振って別れを告げました」とシンプルな一文です。「神のご加護を……」は、ジリオ氏がカトリック系の学校の出身であることから。彼が信心深いかはわかりませんが、こういう場面では神へ加護を願うこともありえるかなと。

18P目

兄ダニエルから見た弟ベンジャミン

前ページの「それは本当に弟の話でしょうか?」以降のこのあたりは全て私の創作セリフです。やり手のビジネスマンであるダニエル・グッゲンハイム氏がエッチェス氏にプライベートな弟の欠点をしゃべってしまうところなどは、彼の混乱や悲しみの大きさを表したつもりです。
彼の弟であるサイモン・グッゲンハイム氏は、事故から数日の間は「兄はひょっとしたら漁船か何かに助けられているかもしれない」などと生存の望みを捨てられなかったようです。この兄弟は色々と確執があったのは確かですが、強い絆があったからこそぶつかることも多かっただけなのかもしれません。いや、どうかな……(本当に兄弟間でやたらに揉めてるので……)。
さてこの後、グッゲンハイム兄弟たちはベンジャミンの仕事の始末に追われることになります。実はベンジャミンの経営する会社は傾いており、内部は滅茶苦茶な状況でした。兄弟たちはベンの遺産を整理するのに7年もかかったそうです……。

19P目

感謝されるエッチェス氏

ここは創作セリフです。ダニエル・グッゲンハイム氏もこれくらい言ったかもしれませんが、ここには私の気持ちを込めています。エッチェス氏は公聴会でも証言台に立ち沈没当時の船員や乗客の状況を語っています。生きて、語ってくれて、私は野良研究者ながら彼にとても感謝しています。

実際のグッゲンハイム家の人々はこの証言をどこまで信じたのか、実際真実と言えるのかという点についてはまた別途記事を書きたいです。少なくとも娘のペギー・グッゲンハイム氏はそれほど信じていなかったとも伝えられています(私はこの漫画を描いたくらいですから、諸々検証したうえで真実だと思っています)。

エッチェス氏はこの事故後も船で仕事を続けました。オリンピック号、カルガリック号などのバスルームスチュワードとして働き、様々な航路を行き来しました。タイタニック沈没事故から32年後、彼は75歳で心不全によりこの世を去ります。

遺体の捜索

タイタニック沈没後、犠牲者の遺体を回収するために何隻もの船が派遣されました。水上飛行機を使っての捜索なども検討されていたようですが、実現はしなかったようです。
船が沈没現場へ到着するころ、付近では嵐もあったためか遺体は方々に散ってしまっていました。1500人の犠牲者のうち回収された遺体はたった300体ほど。更に一度は船に回収されても、船内に遺体を安置するための設備が十分ではなかったために水葬にされた方も多く、最終的に陸へ送り届けられた遺体は200体ほどしかありませんでした。とはいえG&Gは救命胴衣をつけていなかったようなので、彼らの遺体はすでに海面には浮いていなかったかもしれません。

19P目

Emma Säggesser(エマ・ゼーゲッサー)氏

彼女はスイスのラジオで、タイタニック事故に関する証言をしました。
彼女はグッゲンハイム氏の愛人、ニネットのメイドとして彼らと共に乗船しています。氷山衝突後、彼女は客室係に起こされ、すぐにオウバルト氏とともに着替えてG&Gの部屋へと行きますが、彼らは船に迫った危険を信じてはくれなかったようです。ジリオ氏には笑われました。「え、氷山だって? 氷山っていったい何?」……彼女はG&Gはとても落ち着いていたと証言しましたが、それは彼らが「何も知らなかったから」だと思っていたようです。またこちらについても別途記事書きます……。

「タイタニックは修理中」というセリフについては、彼女が証言した「殿方らは『修理中だ』と言いました」という言葉からなので実際ははっきりとG&Gが言ったかどうかはわかりませんが、文脈的にはおそらくG&Gのことだと思われます(船員が言った可能性もあります)。なので「彼ら」という言葉で若干濁しています……。

彼女も事故によるトラウマが残った一人で、事故から20年近く経ってもタイタニックが沈む悪夢を見て夜中に目が覚めてしまう、と話しています。

Léontine Aubart(レオンティン・オウバルト/芸名ニネット)

グッゲンハイム氏の愛人のキャバレー歌手。もちろん不倫の関係ですが、彼女は本当にグッゲンハイム氏を愛していたようで、沈没時は半狂乱になってボートで騒ぎ立てていたようです。救助後に無線で送ったメッセージの文言も、「私は無事だがベンを失ってしまった」という、喪失の悲しみがにじみ出たものでした。
グッゲンハイム家の兄弟は彼女がNYに到着した後コンタクトを取りました。彼女は口止め料を渡されて、フランスに送り返されたとのことです。彼女はショック状態が続いていたためか、フランスに帰国する際乗船チケットを忘れるというミスを犯してしまいました(特別に手配してもらいなんとかなったようですが)。
口止めされていたのであろう彼女は殆どのことを語っていませんが、あの夜の「紳士たち」が勇敢で、冷静で、美しかったことを新聞に伝えています。
彼女はタイタニックで失われた自身の宝石や衣服について損害賠償を請求しています。そのリストがこちら。
……これらはおそらくグッゲンハイム氏からの贈り物でしょう。グッゲンハイム氏は晩年、家族に内緒で800万ドルもの私財を使い込んでいたようですが、この気前の良さを見ると、本当に事業とか関係なく「贅沢な暮らしのために」お金を使っていたのかもしれません……。ジリオ氏を雇ってるのも相当な贅沢ですからね……。しかし彼女が「どうせ確かめるすべはないのだから」と持ち物をマシマシにして請求していた可能性もゼロではありません。

彼女はタイタニック事故から42年後、77歳で亡くなります。彼女のお墓には、彼女の名前とともに「Rescapee du titanic(タイタニックの生存者)」の文字が刻まれています。

16~20Pの解説は以上です。続きの解説はこちらの記事へどうぞ。

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